近頃、P2E (Play to Earn)、○○ to Earnという仕組みを耳にするようになりました。文字通り、○○をして稼げる、というものです。例えば、ゲームをして稼ぐ、歩いて稼ぐ、などといったもので、現在実際にそうして稼いでいる方もいます。Axie InfinityというゲームやSTEPNといったものですね。P2Eという概念に関しては、別記事で詳しく解説しておりますので、よろしければ見てみてください。ここでは、本当にこんなに都合のいい仕組みが成立するのか? について詳しく解説していきます。
どういう仕組みなの?
よく、P2Eゲームの運営はホワイトペーパーというものを公開しています。ホワイトペーパーとは簡単に言うと、「こういう内容のものをこういう仕組み、こういう見通しで作ろうとしていますよ~」ということを投資家たちに伝えるものです。投資家たちはこれでそのサービスの将来性等を判断し、よければ投資をする、という流れですね。
そしてP2E業界のこのホワイトペーパーには、エコシステムというものが掲載されていることが多いです。これは簡単にいうと、お金(そのゲームで使われるトークンという仮想通貨)が循環するシステムのことです。「経済圏」と言う表現でもそれほど間違っていないでしょう。大体のゲームの、2022年初頭現在のエコシステムは下図のようになっています。黒線がお金(トークン)の流れです。
ゲームによって多少違うところもあるでしょうが、大体このような形が多いです。ゲーム運営会社はNFTを売ったり個人間のNFT売買手数料によりお金を得ています(ゲームによっては、ゲームプレイするにあたっての手数料なども取っているかもしれませんね。ここはゲームによって違うので省略しています)。そしてこのお金をゲームプレイヤーやゲームマネージャー(プレイヤーにNFTを貸し出して分配をもらう人)にプレイ報酬として還元しています。これらの矢印のお金の量が釣り合っていればお金は回るわけです。
一見、きちんとお金が循環しているように見えますね。しかしながら違和感を覚えませんか? お金がただ循環するだけなら、誰も稼げてなくないか? と思いません? 誰かが稼いでしまうと、システム内で循環するお金が先細りしていくのではないか? 誰かが稼ぐことはシステムの破たんを意味していないか? この違和感は概ね正しいです。
実はこの図には足りていない矢印があります。このシステムには、システム外へのお金の出入りがあるはずなのです。それを足すと下図のようになります。
これはどういうことを意味するのでしょうか?
現在の○○ to Earnが抱えている問題点
上の図をかみ砕くと要するに、「プレイヤーやゲームマネージャー、ゲーム運営会社の利益や経費は、新規参入者のNFT初期投資のみによって賄われている」ということです。つまり、「参入者を増やし続けないと破綻する」という枷を負っているのです。この業界において、「○○がすごく稼げるから皆やろうぜ!」という文言はよく聞くのですが、こういう背景を知ってしまうと邪推してしまいますよね(笑)
無限に成長し続けるというのは現実的ではありません。やがてどこかのタイミングで成長が止まり、ゲーム運営会社が運営を止める、見切りをつけたゲームマネージャーやプレイヤーがNFTを利確して離脱する、ということが起こります。例えは悪いですが、ネズミ講のような側面を持っていますね。
もっとも、人気のあるコンテンツに初期に参入した人たちは本当に稼げているので、別に彼らが嘘をついているわけではないです。本当に後期に参入した組は初期投資を回収できないと思いますが……。
問題点を解決するには?
じゃあ継続的なP2Eとか○○ to Earnというのは現実的ではないのか、実現したとしても短命なのか、という結論になるかというと、必ずしもそういうわけではありません。これを覆す道はまだ残っています。
要するに、上記エコシステムにお金が入ってくる矢印が増えればいいのです。上の図だと、新規参入者のNFT購入のみです。しかしやり方によっては、他の矢印を持ってくることも不可能ではないでしょう。例えば、以下のような方法が挙げられます。
- ギャンブル性を付加し、ゲームプレイヤーやマネージャーに損失のリスクを負わせる
- 報酬には影響しないが、手に入れたいと思わせるような関連コンテンツを提供する
- ゲームを利用した別のサービスでお金の流入を狙う
というところです。他にもあるかもしれませんが、あったら教えてください(汗)
ギャンブル性を付加し、ゲームプレイヤーやマネージャーに損失のリスクを負わせる
これに関しては、あからさまに日本で実施されることは難しいでしょう。一介の民間企業が手を出せば、賭博法にひっかかってお縄です。ぶっちゃけ、今は見逃されているかもしれませんが、日本でプレイできるNFTゲームのガチャというのは法解釈次第ではありますが、微妙なラインです(もっとも、これ規制するとNFTブームの波に乗り遅れて国益に響く可能性があるので、国も意図的に見逃す可能性はありますが……。ごほんごほん、政治的な話はやめておきましょうか)。
日本ではプレイできないかもしれませんが、海外でそういうゲームを作ろう、としているところの仮想通貨はもしかしたら価値を上げて維持し続けるかもしれないので、その仮想通貨を買っておけば儲かるかもしれない、という点で投資家思考の日本人には全く関係ないというわけではありません。
報酬には影響しないが、手に入れたいと思わせるような関連コンテンツを提供する
「報酬が増えるわけではないけどこのグッズほしい!」と思わせるような形ですね。ゲーム自体が楽しくて、稼げる以外の魅力があれば不可能というわけではないでしょう。「別に報酬増えるわけではないけど、このアバターでプレイしたいな」、「報酬がもらえるわけではないけど、このゲームがコミカライズしたから買って読みたいな」。こんなふうに思うことは少なくないはずです。だって、今のゲームは稼ぐどころかお金を払ってプレイしていますが、人気はありますよね? ゲームが「稼げるからやろう!」ではなく、「面白いからやろう! ついでに稼げるならラッキーだな」という動機でプレイされるような魅力があれば成立するのです。
ゲームを利用した別のサービスでお金の流入を狙う
個人的には、これが一番実現性の高いところだと思います。一番簡単な方法は、そのゲームで流す広告で収益を取るというところですね。他には、ゲームの中で収集した情報を利用して別のビジネスで収益を取る、ということもビジネス設計によれば可能でしょう。
例えば、そうですねぇ、Eat to Earn「食べて稼ぐ」というケースを考えてみましょう。プレイヤーは、レストランで食べるとお金がもらえるという夢のようなシステムです。そして食べた後、プレイヤーにはレストランを評価してもらいます。Eat to Earnの運営会社は、その情報を利用したレストランのガイドを作ることができますよね。そこへの登録料や、広告費などで、運営会社は利益を取る、といったビジネスモデルもうまくやればできるかもしれません (すみません、即席で考えたので、あまりつっこまないでいただけると助かります笑)。
ここでいいたかったのは、収集した情報を利用して別のビジネスに生かすことができる、ということです。頭のいい事業者でしたら、思いつくのではないでしょうか。
今後はどうなっていく?
2022年初頭現在、前章で紹介したような、サービスが継続していくような設計をされている○○ to Earnコンテンツは非常に少ないです。初期参入者だけが稼げて先細りの運命にあるコンテンツが乱立しています。
もしかしたら、まだ盛り上がりの途中なので、もっともっと増えていくかもしれません。日本でも知れ渡るかもしれません。しかしそれらは一旦盛り下がるでしょう。きちんと設計されていないコンテンツが短命であることが露呈するからです。
その後で、きちんと設計されたコンテンツがじわじわ悪評を覆して一定の地位を持って行く、というような流れになると思います。
心配なのはゲーム業界
特に筆者が心配しているのはゲーム業界です。やはり、○○ to Earnといっても、一番話題に上がるのがplay to Earn「ゲームで遊んで稼ぐ」ですからね。一番影響が大きいのはこの業界でしょう。
Play to Earnというシステム、これはプレイヤーにとっては嬉しいシステムですが、ゲーム会社にとっては悩みの種になるでしょう。
一昔前は、「ゲームはお金を払って楽しむ」のが普通でした。今は、「基本無料で、さらに楽しむためにちょっとお金を払う」というのが幅を利かせています。そして今後の動向次第で「基本稼げて、さらに楽しみたいならちょっとお金を払う」をいう形になっていきます。これは、明らかにゲームコンテンツ開発難度、運営難度、必要経費の増加です。
こういった流れに対してゲーム会社が考案した仕組みは「ガチャ」でした。ゲームは無料で提供するが、確率でお金を払ってもらう。これは一定の成功を収めています。
しかし、これからのNFTゲームではこの手が使えない可能性があります。賭博法ですね(NFTは資産なので、ガチャという確率でそのNFTを入手できるかできないか、という方法は引っかかる可能性があります。判決の前例がないのでどうなるかはわかりません)。
また、これまで以上にゲームバランスの調整を慎重に行わなければならなくなります。ゲームバランスを崩壊させる新キャラ、新アイテムを出してしまえば、それまでの既存キャラの資産価値が暴落し、少なくないお金の絡んだ大きな混乱が発生します。
正直上のような課題をクリアする難易度は非常に高いので、稼げるNFTゲームは数あるゲームの中でも一部に留まり続けると思います。今までの普通にお金を払って楽しむゲームが駆逐される未来は、もうしばらく先かなぁ、というように考えています。もちろん、現実はどうなるかはわかりませんけどね。
しかし、ゲーム業界でも大手の会社がNFTゲームへの参入を発表していたりもします。なので、NFTゲームというジャンルがゲーム業界の一定のシェアを持っていく可能性は小さくなく、そうなった場合にどういった開発方針をとっていくかというのは全てのゲーム開発会社が考えておかなくてはならないことだと思います。釈迦に説法ですけどね。
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